昇進の帰り道、喜びより先に不安が浮かぶ
昇進の知らせを受けた帰り道、本当なら跳び上がりたいくらい嬉しいはずなのに、頭の中では夕飯の献立と、明日の子どもの持ち物のことばかりが浮かんでいた、ということはないでしょうか。駅の改札を抜けながら、「これで仕事も忙しくなる。家のことは、いったいどうなるんだろう」という不安のほうが先に立ってしまう。喜びよりも先に、疲れがどっと押し寄せてくる。そんな経験に、覚えはないでしょうか。
その戸惑いは、あなたが欲張りだからでも、感謝が足りないからでもありません。仕事で成果を出し、収入が増えても、家庭の中の家事や育児の負担がそのまま変わらなければ、心が休まる時間は増えないままです。得たものと引き換えに、負担だけが静かに積み重なっていく。そんな状態では、幸せを感じる余裕が生まれにくいのも、当然のことなのです。ここまで、仕事も家庭も、両方に手を抜かず本当によく頑張ってこられましたね。
こんな瞬間、心当たりはありませんか。給料明細を見ても、達成感より先に「これでこの生活を維持し続けなければ」というプレッシャーを感じてしまう時。「仕事も家庭も両立できてすごいね」と言われるたびに、笑顔の裏で密かに疲れを感じてしまう時。専業主婦をしている友人のSNSの投稿を見て、なぜか羨ましいと思ってしまう自分に、驚いてしまう時。どれも、決して珍しい感情ではありません。
特に、久しぶりに大きな仕事をやり遂げた夜、達成感を味わう間もなく、洗濯物を畳みながら明日の会議資料のことを考えていた瞬間。「今、私は何のために頑張っているんだろう」と、ふと分からなくなってしまうことがあるかもしれません。仕事も家庭も精一杯やっているはずなのに、そのどちらからも「よくやった」という実感を得られないまま、時間だけが過ぎていく感覚です。
同じように、久しぶりに同僚とランチに行き、「本当にすごいよね、仕事もできて家庭もちゃんとしてて」と言われた瞬間、笑顔で「そんなことないよ」と返しながら、心の中では「本当は毎日ぎりぎりなんです」という言葉を飲み込んでいた、ということもあるかもしれません。評価してもらえるのはありがたいのに、その言葉と自分の実感との間にある溝を、誰にも打ち明けられずにいることもあるでしょう。
それでも、「こんなに恵まれた環境にいるのに、幸せを感じられない自分はおかしいのかもしれない」と、自分を責めてしまう夜もあるでしょう。仕事も続けられて、収入もある。傍から見れば恵まれているはずなのに、なぜか心から満たされない。その矛盾に、うまく向き合えずにいることもあるかもしれません。
その疲れは贅沢な悩みじゃなく、「二つの持ち場」を同時に守っているだけかもしれません
働きながら幸せを感じにくくなるのは、あなたの心が贅沢だからではありません。仕事という新しい役割が加わっても、家庭内の役割がそのまま維持されている場合、あなたは実質的に「二つの持ち場」を同時に守り続けていることになります。脳と体は、休む間もなく働き続けるその状態に対して、静かに悲鳴を上げ続けているのです。
私はこれまで、仕事を通じて多くのママたちの声に耳を傾けてきました。以前、あるママがこんな話をしてくれたことがあります。長年目指していた昇進が決まった日、家に帰って真っ先に頭に浮かんだのは、喜びではなく「これで残業が増えたら、保育園のお迎えはどうしよう」という不安だった、と。「本当は嬉しいはずなのに、素直に喜べない自分に、少し情けなくなりました」と、複雑な表情で話してくれたのが印象に残っています。
こうした苦しさの背景には、いくつかの「思い込みのクセ」が隠れていることがあります。例えば、良かったことより、たった一つの気がかりなことばかり気にしてしまうクセ。昇進や収入の増加という喜ばしい出来事よりも、「これからの負担」ばかりに意識が向いてしまってはいないでしょうか。喜んでいい瞬間を、自分で小さくしてしまってはいないでしょうか。
もうひとつ、この先もずっとこの二重の負担が続くと決めつけてしまうクセもあります。「仕事と家事の両方を、この先もずっと一人で背負い続けることになる」と、未来まで先回りして諦めてしまってはいないでしょうか。今の分担のバランスが、そのままずっと変わらないとは限りません。
「両立できてすごいね」は、見えている部分だけを見た言葉なのかもしれません
「両立できてすごいね」と言ってくれる人たちも、決して悪意で言っているわけではありません。多くの場合、その言葉は、仕事の成果という見える部分だけを見て発せられていて、家庭でどれだけの負担を背負っているかまでは、想像が及んでいないだけなのです。あなたの本当の忙しさは、外からは見えにくいものだからこそ、周りの言葉と実感の間に、ずれが生まれてしまうのです。
同じように幸せを感じにくくなっているのは、あなただけではありません。仕事と家庭を両立させている多くの人が、同じような矛盾を抱えながら日々を過ごしています。恵まれているはずなのに満たされない、というその感覚自体が、実はとても多くの人に共通する感覚なのです。
「恵まれているのだから幸せを感じるべきだ」という考え方自体が、あなたをさらに追い詰めていることもあります。幸せは、条件が揃えば自動的に湧いてくるものではなく、心と体に休む余白があって初めて、静かに感じられるものです。条件を満たしているのに幸せを感じられないのは、あなたの感受性の問題ではなく、単純に休む余白が足りていないだけ、ということもあるのです。
もしよければ、「両立」を、完璧にこなす言葉としてではなく、「なんとかやりくりしている」くらいの言葉として捉え直してみる、という方法もあります。両方を100点でこなそうとするのではなく、今日はどちらかが70点でも十分だと、基準を少し緩めてみることから始められます。
また、収入を得たことで生まれた選択肢を、家事の一部を外部に頼るために使ってみるのもひとつの方法です。それは「甘え」ではなく、自分の時間と心を守るための、立派な使い方です。
「両立できてすごいね」と言われた時、無理に謙遜して否定しなくても大丈夫です。「ありがとう、でも正直大変なんだ」と、少しだけ本音を添えてみるのもひとつの方法です。本音を漏らせる相手が一人でもいるだけで、抱えている重さが違って感じられることがあります。
そして、今はまだ幸せを実感する余裕がない、という時期があってもかまいません。今日を無事に乗り切ることを、まずは優先していいのです。
素直に喜べない自分を、責めなくていい
働きながらも幸せを感じにくいあなたは、それだけ多くの役割を同時に背負い、真剣に生きてきたということでもあります。その頑張りは、決して当たり前のものではありません。
素直に喜べない自分を、責めなくて大丈夫です。それは、あなたが今、限界近くまでやりくりしているというサインなのですから。
明日も、無理に幸せを実感しようとしなくて大丈夫です。あなたのペースで、少しずつで大丈夫ですから。
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